ソーシャルグラフ 2.0

今更語るまでもありませんが、10年代に入り、SNSが「社会的に注目を集める」状態から、「国民的インフラ」状態にまで到達したと言っても過言では無いでしょう。解りやすいUIと、お節介とすら言える親切な機能で、レイトマジョリティまで拡大したものと思います。大震災におけるTwitterのめざましい活躍や、スマートフォンの爆発的な普及等も追い風を加速する要因だったと言えましょう。

さてそのように大成長したSNSですが、次は何を目指すべきなのか。私は機能やUIよりも、ソーシャルグラフそのものを進化させることが重要だと考えております。

SNSにおける最も重要な要素はソーシャルグラフです。まずソーシャルグラフありき、その上で機能やUIが追従してくる方向性が今後のSNSに求められる、というのが私の持論です。



ソーシャルグラフは簡単に言えば「人間関係図」です。SNSからソーシャルグラフを抜いてしまうと、何の変哲も無い、UIが統一された単なるブログシステムになります。RSSを用いればブログでもSNSのメッセージフィードライクなシステムは作れますが、それでは一般の人達に対してこれほどまでに普及はしなかったでしょう。

友人として承認する、フォローする、たったそれだけの行為で、友人知人の情報が勝手に飛び込んで来るし、また発信することもできる。更なる便利機能として、ソーシャルゲームやコミュニティへの参加、マルチメディアコンテンツの公開、共有、コラボレーション等も可能で、まさに時代の花形と呼ぶにふさわしいプラットフォームと言えるでしょう。

そのように便利なSNSですが、普及するにつれて「あれ、おかしいな?」と違和感を覚える人が増えてきたのも事実でしょう。本当に友人のみと使っている場合はよいのですが、会社の上司・部下、家族、そして有名人ですら「友人」として承認していたのです。mixiであれば「マイミク」、Facebookであれば「友達」、Twitterであれば「フォロワー」と呼ばれますが、呼び方の違いだけであって、とどのつまり「友人的関係」で隣接していたのです。

mixiにいたっては「マイミクの」という新たな人間関係まで生まれており、真に逆説的ながらソーシャルグラフが新たな人間関係を作るという興味深い事実もあるのですが、ここでは触れないでおきます。

さてそんな「友人的関係」しか枝を持たないソーシャルグラフに一石を投じたのが、本年登場した「Google+」です。Google+では、全ての隣接する相手に「サークル」というタギングで関連性を記述することができるようになりました。

これは画期的でした。少なくとも私は、隣接する他者が全て「友人的関係」で画一化されているシステムよりも(手間はかかるものの)遥かに自然で、進化したソーシャルグラフだと感じました。今まで皆が違和感を感じていたところに、ついにGoogleがメスを入れた! と思いました。

そのような理由から、今でもGoogle+を好んで使っております。しかしながら、確かに「サークル」というタギング心理的にはとてもナチュラルで心地よいのですが、機能的な進化かと問われれば、そうではありません。例えばmixiでも「グループ」機能を用いればグルーピングは可能です。同様にFacebook, Twitterでも「リスト」によるグルーピングが行えます(大雑把な言い方ですが)。

このようにGoogle+ソーシャルグラフ心理的意味では進化をとげたと言えますが、機能的意味での進化とまでは言えないでしょう。ここからは機能的な進化について考えます。



SNSにおけるソーシャルグラフ形成の目的は、大きく3つあるものと思います。

  1. 公開コンテンツの選択的な取得
  2. 公開先の限定
  3. ソーシャルグラフに他者を組入れること自体(e.g. マイミクになる)

1.および3.は、健全な目的と言いますか、あまりごにょごにょせずに達成できる目的であり、機能的にも現状のSNSで完成していると思います。2.こそが、まさに「ある人には見せたいが、ある人には見せたくない」という人間心理の本質であり、SNS普及の大きな一因になったのではないかと私は考えております。

そこで2.を進化させるにはどうすればよいか? と考えたのが、ソーシャルグラフへの距離の導入です。

例えば、親しい人=1, 普通の人=2, 余り親しく無い人=3, というように、人間関係に距離を付加するのです。Google+では人間関係に「質」が付加されましたが、本記事で提唱したいソーシャルグラフでは更に「量」を付加するということです。

これによって、様々な公開範囲を設定することが可能になります。上図で「距離2まで公開」とすれば、「やばい友達」の隣接他者には公開されませんが、「信頼できる筋の友達」の「親しい人」には公開されます。

Google+のサークルと組み合わせれば「Friends + 距離1 まで公開」といったように、自由に公開範囲を設定することができます。「六次の隔たり」のロジックで言えば、「6ホップ(距離18)まで公開」としておけば、ほぼ全体に公開しているのと等価だが、クローラによる検索をブロックする、といった使い方も可能になります。



以上、今まで「質」だけだったソーシャルグラフの枝に「量」を付加してはどうか? というのが本記事の論旨です。それをもって烏滸がましくも「ソーシャルグラフ 2.0」と呼称してみます。もちろん、突然そのような実装を行っては、ユーザー側もSNS提供側も困惑するでしょう。本記事のようにいい加減な推論ではなく、定量的な評価を行った上で、UIを含めたプラットフォームが緩やかにソーシャルグラフ 2.0に移行できたら、ややこしくもちょっと便利な機能になるかもしれないし、ごちゃごちゃするだけかもしれません;-)